東京地方裁判所 平成10年(ワ)30063号 判決
原告 宮崎鎭雄
右訴訟代理人弁護士 箕輪正美
山内一矢
瀬野真志
被告 小林唯史
右訴訟代理人弁護士 堀敏明
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録三記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明け渡せ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 主文一、二項と同旨
2 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四三年六月二八日、小林一郎(以下「一郎」という。)に対し、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を普通建物所有目的、期間二〇年、賃料一か月一六八〇円の約定で賃貸し、引き渡した(以下「本件賃貸借契約」という)。
2 一郎は、右契約に基づき、本件土地上に別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。
3 一郎は、昭和五九年一〇月三〇日死亡し、相続により、被告が本件建物及び右一郎の賃借権を承継した。
4 本件賃貸借契約は、昭和六三年六月二八日、更新された。
5 本件建物は、平成一〇年一一月当時、朽廃状態にあった。
6 本件建物は、平成一一年一月一〇日、火災に遭い、被告は、その滅失した跡に別紙物件目録三記載の建物(以下「新建物」という。)を建築して所有している。
7 よって、原告は、被告に対し、建物朽廃による賃貸借契約終了に基づき、新建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5の事実は否認する。
3 同6の事実は認める。
第三証拠関係
証拠関係は本件記録中の証拠目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1ないし4及び6の各事実は、当事者間に争いがない。
二 本件建物の朽廃
1 一の事実に証拠(甲二ないし五、八ないし一四、乙一ないし五、証人石井美佐男、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 本件建物は、建築後約六〇年を経過した木造平家建の居宅であり、玄関・タタキから続く三畳間、その奥の六畳間、更に奥の八畳間の三室と、押入、台所、便所、廊下からなっていた。
(二) 本件建物の屋根は、日本瓦葺きであったが、一〇年以上前から、玄関・タタキ部分の瓦がずれ落ち、雨漏りが始まった。被告が一〇年ほど前に修復工事を施したものの、雨漏りは再び生じたまま現在まで続いていた。外壁はベニヤ板で張られていたが、三〇年ほど前に台所付近の壁に穴が開き、その部分はトタン板に替えられた。玄関の扉は二〇年ほど前から開かなくなり、本件建物の出入りは六畳間奥の台所の勝手口によりされていた。
(三) 建築後長年経過したのに加え、一〇年ほど前の修復工事以来修繕が加えられることもなかったため、本件建物は、雨漏りによって建物全体に湿気がまわり、老朽化が進んだ。
(四) そして、平成一〇年一一月ころには、本件建物の玄関・タタキ上付近の屋根は、瓦、野地板、垂木が落ちて穴が開き、またその下の壁も穴が開いており、多量の雨が吹き込む状態であった。
右付近の雨漏りを直接に受ける梁、柱及び壁は腐食し、特に梁と柱の腐食は著しく、それらの交換ないし補強をした上、屋根自体もすべての瓦を素材の軽いものに交換しなければ屋根を支える機能が危ぶまれる状態にまで至っていた。
外壁は、雨漏りの最も激しい玄関部分から比較的遠い八畳間奥の廊下の外側の壁板にも腐食、破損がみられた。(右の事実からは、建物全体の外壁にわたって湿気及び老朽化による腐食、破損が進んでいたことが推認できる)。
(五) 本件建物の内部について見ると、玄関・タタキから続く三畳間は畳が腐食し、一部の床は抜け落ちていて、天井板及び内壁は雨漏りによるシミ、剥離が目立った。六畳間と台所の間の畳・床板が腐食し、畳一畳ほどの穴が開いていた。三畳間と六畳間との間の障子や三畳間奥の押入れの上の壁は一部が崩落しており、まったく機能を果たさないとまでは言えないものの、損傷が著しかった。
(六) 本件建物に電気は通っていたが、被告は二年ほど前から本件建物には寝泊まりせず、熱海に居住していて、せいぜい、昼間、仕事を探すついでに本件建物に立ち寄る程度であった。その際も、玄関が使用できないため、勝手口から出入りする有様であった。
(七) 被告は、平成一〇年一一月二九日ころ、株式会社日本リビックスに請け負わせて、本件建物の修復工事を始めた。工事内容は、玄関タタキ部分の四本の柱とすべての梁を取り替えるほか、建物全体の屋根の垂木、野地板及び瓦も取り替え、新しい瓦は屋根を支える柱の老朽化のため、最も軽量の平瓦を葺く予定であった。
工事代金の見積額は約三五〇万円であったが、工事の進展状況により、更に新しい工事を追加することを予定していた。
(八) 右修復工事中の平成一一年一月一〇日、本件建物は火災により滅失し、被告は、同年二月初めころから三月末ころまでの工事により、本件土地上に新建物を新築した。
2 1の事実によれば、本件建物は、建築後約六〇年という長期間を経過している上、一〇年ほど前からの雨漏りにもかかわらず、放置されてきた結果、屋根、柱、壁など建物の主要構造部分に相当程度の腐食がみられ、修復工事を始める頃には、人が居住できるような状態にはなかったもので、居住等、建物として通常の利用をしようとすれば、建物内外において、新築に近い大修繕を要する状態にあったと認められる。
3 建物の朽廃とは、単に物理上の使用不可能あるいは倒壊の場合に限らず、建物に生じた物理的腐食により建物としての社会経済上の効用を喪失する程度に達したと認められる場合をもいうところ、上叙の事実に徴すれば、本件建物は、被告により修復工事が開始された平成一一年一一月二九日ころまでには、全体的に観察して、既に建物としての社会経済的効用を失う程度に至り、朽廃していたと認めるのが相当である。
4 右によれば、本件土地についての被告の借地権は、遅くとも右修復工事の開始時期には消滅したというべきである。
三 以上の次第であるから、原告の請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担については民訴法六一条を適用し、仮執行の宣言は相当でないのでその申立を却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 信濃孝一)
別紙
物件目録
一 所在 江戸川区東小岩四丁目
地番 三九二番一
地目 宅地
地積 一一一・〇八平方メートル
ただし、右土地のうち、別紙添付図面の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線で結ぶ範囲の部分(斜線部分)
二 所在 江戸川区東小岩四丁目三九二番地
家屋番号 一八二番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺平家建
床面積 五二・〇六平方メートル
三 所在 江戸川区東小岩四丁目三九二番地一
家屋番号 三九二番一の二
種類 居宅
構造 木造スレート葺平家建
床面積 一九・八七平方メートル